硬券(乗車券)の魅力

歴史

1825年に世界で初めて鉄道営業が開始され、その5年後にリバプール・アンド・マンチェスター鉄道が本格的な旅客営業を始めました。その当時は手書きの切符が使われており、薄い紙に一枚一枚行き先や運賃、発車時刻、目的地を書き込んでいました。しかし、このような切符では売上げの完全なチェックができず、発行に時間がかかるため、切符の改良を余儀なくされました。そこで誕生したのが硬券切符です。

ニューカッスル・アンド・カーライル鉄道のミルトン駅の駅長をつとめたトーマス・エドモンソンは、1837年に独自の乗車券と印刷機を開発しました。その当時では、エドモンソン型の乗車券システムは非常に合理的であったため、ヨーロッパをはじめ、世界中に浸透していったのです。エドモンソン型の乗車券は、発着駅名や運賃、通し番号を記載した厚紙を木枠にセットし、乗車時に大槌で打つという方法で印刷されます。切符は1枚ずつ番号が割り当てられており、番号順に発券されました。最終列車が発車した後に、残っている券の一番小さい番号と前日の番号を比較することで、発券枚数の把握と料金の計算が簡単にできるようになったのです。

日本で切符が使われるようになったのは、新橋~横浜間での鉄道営業が開始された、1872年(明治5年)からです。当時の日本には、切符を製造する技術はなく、イギリスに助けを借りる必要がありました。そのため、用紙や印刷機など必要なものをすべてイギリスから輸入し、エドモンソン型の切符を製造しました。しかし、この当時使われていた紙は粗雑なもので、現在にも残る硬券切符に近い平滑な紙が使われるようになったのは明治の終わり頃からです。

使われ方

硬券(乗車券)は電車に乗車する時に使われます。現在は交通系ICカードの普及により切符を購入する機会は少なくなりましたが、当時は、電車に乗る際は必ず切符を買わなければなりませんでした。駅員に行き先を伝えると、駅員がホルダーから硬券を取り出し、ダッチングマシンと呼ばれる機械を使って日付を印字してくれます。その硬券を持って改札口に行き、鋏をもった駅員に硬券の端を切り落としてもらうことで乗車が可能になりました。

時は流れ、1925年頃からは日本でも切符の自動販売機が見られるようになりました。自動販売機とはいえども、手動式であり、レバーを下ろすと入場券が出てくるという簡単な仕組みの販売機でした。あらかじめ印刷がされている紙に日時や通し番号を刻印するためのもので、販売の効率化の役割を担っていたのです。

その後、1956年から電動式の自動販売機が姿を見せるようになりました。当初は、ひとつの自動販売機で購入できる切符は、特定の区間や運賃に限定されており、駅には運賃別の自動販売機がたくさん並びました。後に、一つの自動販売機でさまざまな行き先や運賃に応じた切符が発行可能になりました。

自動販売機の台頭により、駅員の負担が減ったものの、少数・少量販売しかできないというデメリットがありました。そのため、より多くの券を発行することができる、軟券を用いた自動販売機も導入されました。販売のされ方は変わりましたが、改札口で硬券を駅員に見せ、切り落としてもらうという入場の流れはしばらくの間続きました。

収集する魅力

時の流れと共に技術が進歩し、硬券を用いた自動販売機から軟券を用いた自動販売機へと変わりました。そして、切符の主流は、現在使われている、磁気コーティングされた感熱紙へ、ついには切符ではなくICカードへと変わっていったのです。

このようにして、時代が進み、硬券切符を手にして乗車する機会は大きく減りました。しかし、その「希少性」こそが、硬券切符を収集する魅力だと言えます。硬券切符の券紙には特殊な紙が用いられていました。当時は、硬券はお金と同等の価値を持つとされており、偽装防止のためにも、券紙の成分や厚さなどを各会社で異なるものにする必要があったのです。また、硬券切符は活版または凸版で印刷されており、現代の印刷機とは異なり、多くの手間と時間をかけて印刷が行われていました。硬券の印刷技術は非常に高いものであり、製造を行える会社は現在では限られています。このような硬券の希少価値に惹かれて収集を行っている人は少なくないでしょう。

硬券切符は券紙だけでなく、形も一様ではありません。乗車券用の硬券切符は、乗車する際に、改札口にいる駅員に切符の一部を鋏で切り落としてもらう必要がありました。切符の切り落とされた跡を見ると、乗車した路線や駅で形が少しずつ異なっているのです。それだけではなく、鋏を入れる位置もさまざまであり、二つと無い硬券切符は集めるに値するものだと言えます。

また、現在硬券が乗車券として使われている例が、全国を見ても片手で数えれるほどしかありません。2019年を最後にJRでも販売が終了し、地方の私鉄などでしか目にしなくなりました。これほどまでに見られなくなったのは、硬券は自動改札機に通すことができないため、自動改札機が主流となった現代には不必要となったからです。しかし、乗車券として取り扱うことのなくなった会社でも、記念切符として売り出しているところが多くのあります。そこには、日本の鉄道切符の歴史を物語るうえで非常に重要となる硬券をこれからも残していきたいとういう思いが感じられます。これこそが硬券を収集する魅力なのではないでしょうか。

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